第1章 ああ、めんどくさい
「詳細説明しだしたらキリがないんですけど。つぅかめんどくさい」
「あなたねぇ、自分の立場わかっているんですか」
鈍器の金棒を頬へグリグリと押し付けられている。
その主こそ、『鬼灯の冷徹』の首領(ドン)である、鬼灯様その人だ。
容姿端麗で文武両道、ドSがウリの文字通り鬼である。
「ほらぁ、やっぱり尋問じゃん。なんでよりにもよってこっち側なの。桃源郷あたりならまだマシだったのに」
「知らないよ、喚ばれて来たらここだったんだから!」
罪人が引っ立てられるかの如く、容赦なく後ろ手に縛り上げられて2人とも正座をしている。
目の前には敵でも(ある意味間違ってはいない)見るかのように鬼灯が仁王立ちで構え、後ろには閻魔大王がオロオロと様子を伺っていた。
「トリップとか云々夢物語としてならあるでしょう。しかし長くここにいる私がそんな存在、今の今までつゆほども見かけたことは無いですからね。胡散臭い。さあ、吐きなさいどこのスパイですか!」
「いだだだだだ!!」
目が座っていて、本気で怪しんでいるらしい。
とはいえ、身の潔白を証明出来るものも持ち合わせてはいない。さらに知り合いなんぞいる訳もなく。
叶弥の左頬にめり込む金棒がかなり痛い。
頬の内側が切れてしまったらしく、血の味がし始める。
(まって、鬼灯の冷徹ってギャグじゃなかったのか、地味に怖いんだけど!というか腐っても地獄!)
「というか、なんで私だけこんな事になってんの、カノンだけ無傷でズルイ!」
「女性に暴力振るうわけには行きませんので」
「ウソくせぇ!なんでフェミニスト気取りなんだよ、つか私も女なんだけど!」
半ばキレ気味に反抗してみると、鬼灯の金棒を押し付ける手が止まる。
「……あなた、女性だったんですか」
目を見開くあたり、本気で男と間違っていたらしい。
「正真正銘生物学上は女です、オ ン ナ !それに嘘ついてないですし!これ以上説明するとややこしいしこっちもよく分かってないんですって!お前はとりあえずその金棒を今すぐどけろォォォ!!!」
女性らしさとは程遠い自覚はあったが、その反応はやはりショックだ。今までの世界ではそれなりに女性扱いを受けていただけに、鬼灯の反応はいただけない。