第3章 無給労働
口止めを願うも、茄子は画面をタッチしながら既に電話に出てしまったあとだった。
こちら側の声が聞こえないように口を塞ぎながら、目を白黒させて唐瓜を手招きする。
「?どうしたんですか叶弥さムグッ」
(シー!)
必死のジェスチャーでもって、どうにかやり過ごしたい叶弥は人差し指を立てて声を立てないように訴える。
その必死の形相にただ事ではない空気を察した唐瓜は、頭を縦にコクコクと振る。
叶弥はそーっと茄子に目線を移すと、はたと目が合う。
「あ、いますよ、目の前に」
「〜〜〜〜〜〜ッッ!!」
懸念した事態が起こってザーっと青ざめた叶弥。
声を出さずに必死に身振り手振りで訴えるものの、茄子は全く意に介してないらしい。首を捻るばかりだ。
自分がここにはいないと訂正して欲しい叶弥は、それでも手を振り続けるも、彼は電話を代わるようにスマホを差し出してきた。
(む、無理無理無理無理、出ないって!)
「え、出たくないですか?…鬼灯様、出たくないそうです!」
「ぉぉぉお前はこの空気を読めェェェェ!!!!」
叶弥は耐えきれずに大声で突っ込んでしまって口を噤むが、後の祭りだ。
音声拡大されたスマホからあの独特の声が響いてくる。
『そこにいたんですね叶弥さん。逃げたって無駄ですよ』
「ハンズフリーかよ!使いこなしてんな地獄!」
最早引っ込みがつかなくなった叶弥はヤケクソ気味にそう言い放つと、茄子を恨めしそうに見るが、その顔は至って無邪気なのだった。
『残念ながらあなたは全地獄に指名手配されました。抵抗しても無駄だと思いますので、諦めて投降しなさい』
「しっ、指名手配だと!?私は犯人か!」
『ええ、器物損壊に公務執行妨害ですよ。…全く、手間をかけさせる』
誰のせいだ、と口には出さないが、内心穏やかではない。
ポヤーとしていた茄子も、鬼灯の放った物騒な単語の羅列に流石に顔が引きつっている。
大人しく登降する気がない叶弥は、見えない鬼灯相手にべェーと舌を出して言うのだった。
「だが断る!」
「断っちゃうの!?」
「そもそも鬼灯のせいだ、私は悪くない」
あの鬼灯相手に盾突くなんて。
小鬼ふたりは叶弥を凝視するのだった。