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クチナシ【鬼灯の冷徹】※不定期更新

第3章 無給労働


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「あだっ」

盛大にすっ転んだ叶弥は、その膝を涙目で払う。閻魔殿から逃げ出したのはいいが、闇雲に走ったのが良くなかったらしい。
辺り一面に立ち込める血の匂いに、思わず口を抑える。荒野というには血なまぐさすぎる光景に目を細めた。
よく見ると、まわりでは犬だの猫だのが亡者に食らいついていて、見ているだけで痛々しい。

「あれは甘噛み…なわけない」

そういえばそんな地獄もあったような気がする。
動物に優しくない人間が逆襲にあう地獄が。

(ま、因果応報ってやつだね)

血で血を洗うスキンシップを見送りながら、とにかく前へと歩を進めると、遠くに見たことのある姿が映った。
唐瓜と茄子である。
彼らは小鬼という種族で体格は叶弥より一回り小さめだが、どうやらそれで成人という扱いらしい。
かわいいなぁ、なんて不覚にも思ってしまったのは口には出さないでおこうと思ったのだった。
大の男がかわいいなどと言われて喜ぶはずもない。

というより

(あのふたり、鬼灯と仲も良かったはず。見つからない方が良さそうだな)

痛む足を庇いながら、そうっと通り抜けようとする。
周りにあるのは、痩せた木と体を隠すには足りない小さめの岩ばかりだ。
離れておかないと見つかってしまうだろう。
そして、お約束の事態が訪れる。
後ずさりした先に、脛くらいの大きさの岩が痛めた足に引っかかった。
いつもなら受身くらい取れそうなものだが、痛む足を庇ったせいでバランスを崩してしまう。

「っと、うえぇぇぇえ!?」

踏ん張りも虚しく今回二度目の転倒となった叶弥は、ハッとして口を噤んだ。

「あれぇ?叶弥さんですよね?」
「ん?あっ、病人の叶弥さんですか!」
「今はどっちかと言うと怪我人かな…」

はは、と力なく笑う叶弥の姿は滑稽だ。

ひっくり返ったままさまよう手足が不様に揺れている。
ちょっと起こして欲しいなぁ、なんて目で訴えると、ふたりは叶弥の手を引いて起こしてくれたのだった。

「へぇ、結構力あるんだね。ありがとう唐瓜くんと茄子くん」
「いえいえ。…ん?名前教えましたっけ?」
「あっ、ああ…カノンから聞いたんだよ、病人がいるからって声をかけてくれた人がいるってさ」

そうだった、彼らとは初対面だった。
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