第3章 無給労働
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…変なヤツ。
鬼灯とはまた違った何故か神経に触るあいつに、寝床を貸してやるのも気に食わないんだけど。
どちらかというと、僕に近い存在のようにも思う。
呼び寄せてからずっと様子をうかがってはいるけど、特に何か怪しい素振りも見せなかった。
黙って淡々と雑用をこなす姿に、桃タロー君は助かります、なんて言っていたけど。
(…抵抗されなさすぎるのも、ちょっとね)
叶弥ちゃんが人質みたいなものだがらかも知れないけど、全部を見透かしたような目をするカノンが、僕の中の『神獣白澤』をざわつかせた。
(面白くない)
側でしなだれ掛かる女の子に、普段はない面倒臭さを感じて思わずその手を振りはらう。
「あっ、ごめんね、考え事をしてたから」
「ひ、酷い…やっぱりあの女がいいのね!」
あの女とはどの女の事かさっぱりわからない僕は、次に襲い来る強烈な蹴りに対応出来なくて、ドアごと吹っ飛んでしまった。
「うぐ…強烈だねえ、そんな君も嫌いじゃないよ」
桃タロー君とカノンが僕を凝視しているのがわかる。大方懲りないなぁ、なんて考えてるんだろうけど。
飛び起きて汚れた服を払うと、怒って去っていく女の背を見送った。
「白澤様…もう何人目かわかりませんよ」
「僕は博愛主義なんだよ、どの女の子も大事にしたいんだけどなぁ。何故かみんな分かってくれないんだよね」
「はぁ…恐らくその感覚は誰にもわからないと思いますよ」
レディ・リリスを除いては。
彼女は僕に近いらしく、出会って一分でお互いの番号を交換したくらいだ。
僕にしてみれば誰かひとりに固執する方が気が知れない訳で、カノンの言う家族みたいな存在と豪語する叶弥ちゃんへの執着心が、寧ろ気持ち悪いとさえ感じていた。
「君に気持ち悪いだなんて言われたくないね、この淫獣。去勢した方がいいんじゃないの?」
「あはっ、聞こえてた?…というか、君に非難されるいわれはないんだけど」
「これが神獣とは聞いて呆れるね。桃タロー君がいなけりゃ、こんなところとっくにサヨウナラなんだけど」
「不審者の癖に強気だよね。その妙な自信は一体何処から来るわけ?」
お互いから嫌悪の氣を迸らせていると、桃タロー君のため息が耳に届いたので、仕方が無いから僕から引いてあげる事にした。