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クチナシ【鬼灯の冷徹】※不定期更新

第3章 無給労働


ハハハと笑ってそういうと、桃太郎はちょっと羨ましいですと答える。
それは、彼自身の事を振り返っての事なんだろうか。

「君にもいつかそういう人がみつかるよ、きっと」
「…ありがとうございます」

はにかんだようにそう言われて、僕は黙って笑顔を向けていた。
足元には休憩に集まったウサギたちがもふもふとうずくまっていて、叶弥にも見せたいなぁ、なんて考えていた。
ふと、一羽に目が行く。

「あれ、あのコ怪我してない?」
「えっ、どれでしょう…あっ、後ろ足が血で滲んでますね」

立ち上がってそのウサギを抱えると、白澤様を、と言いかける桃太郎を制止する。

「彼、薬を調合とか言いながら来た女の子口説いてたよね。今行ったら気まずいと思うけどなぁ」

原作を見る限り、度々白澤の色恋沙汰に巻き込まれて怪我を被っていたはずだ。またそうなるのも可哀想だろうと止めたのだが、桃太郎はしかし、と聞かない。
ハァとため息を吐くと、抱えていたウサギをそっと触れてやる。

「これくらいなら…桃太郎君、内緒だからね?」

返事を待たずに僕は力を手のひらに集中させる。
淡い光が灯ると、ほどなくしてウサギの傷や血のあとが消えていった。

「……えええ!?カノンさん、今のって「シッ、内緒だからね。というか見てないことにして、面倒だから」…わかりました」

桃太郎は感動しているらしい、僕とウサギを交互に見やって見るからに顔が上気している。
ああ、叶弥も最初にこんな反応していたなと思って少しだけ嬉しくなった。

僕のそれは、傷を『癒す』のとは違う。
傷を受ける前までの状態に『時間を戻した』のだ。
当然力を使うわけだから、あまりに深い傷や広範囲だとこの能力は使えない。勿論瀕死の状態だと尚更だ。
力の源はあくまでも物質に宿る、いわゆるマナを取り込んでいるものなので、過剰な消費は僕の実体化にも影響してしまう。
普段なら叶弥の前以外では使わないのだが、桃太郎の毒気を抜かれる雰囲気についやってしまったという感じだ。

ここに来てからはイレギュラーな事ばかりだ。
そもそも、叶弥の記憶を押さえ込むのがうまくいかなかったのが原因だと思っている。

(あんまり考えたくはないんだけど、まさか…ね)

一つだけ思い当たる節を、いやいや、と否定して仙桃を齧った。
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