第3章 無給労働
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(僕と叶弥は監視対象じゃなかったのか)
叶弥の回復を待って僕へ告げられたのは、桃源郷への派遣労働だった。
当初は地獄へ留まらせて監視するという事だったはずなんだけど、人手不足という事で急に予定変更されて今に至る。
こちらへ飛ばされた時の物語の進行具合が分からなくて首を捻っていたんだけど、叶弥を通して垣間見た大分初期の話の時点で、桃源郷の人員不足は解消されているはずだから、それは多分僕を叶弥と離れさせるための口実なんだろう。
一応黙って受け入れはしたんだけど。
案の定、『うさぎ漢方 極楽満月』で桃太郎がせっせと芝刈りをしていた。
(僕、一応カミサマの端くれなんだけど。なんで草むしりさせられてるのか意味がわからない)
あたりに漂う仙桃の甘ったるい匂いが、大分昔に訪れた世界を思い出させる。彼は元気だろうか。
少しだけ思い出に浸っていると、桃太郎がにこやかに笑いながら近づいてきた。
「カノンさん、そっちが終わったら一旦休憩しましょうか」
「ん、わかったよ」
改心した桃太郎は実に堅実だ。
ここ2・3日だが、真面目に働く姿には感心する。
彼のような人物が叶弥の側にいたらきっと精神的にも安定しそうなんだけどな。
(…まあ、うん、見目麗しいけどね…)
こう言ってはなんだけど、実に時代背景を体現した存在だ。僕らが見てきた世界の中でもトップを争うくらいかも知れない。
「叶弥は見た目だけで判断はしないから、君にもチャンスはあるよ、きっと」
「真顔で何を言い出すんですか、なんだかすごく失礼な事を言われた気が」
それに、叶弥って誰なんです?
桃太郎は僕が度々口にした名前を聞いていたから、いい加減気になったんだろう。無理もない。
「普通の女の子だよ。家族、かな。上手く言えないんだけど」
「カノンさんの彼女とかじゃなくてですか?」
「うん。恋人とかそういう刹那的なモノじゃなくて、僕らはもっと深い所で繋がってるんだ。精神…いや、魂の繋がりかな」
だから、離れてる今でもなんとなく彼女の事はわかるんだよ。
そう付け足すと、桃太郎は首をかしげてわかったような分からないような反応を返した。
「もう3日くらい経ちますよね、心配ですか?やっぱり」
「そりゃあもう」