第9章 貴方は元カレの
「えと…どういった?」
引きつったように笑う私に、彼ははにかむような表情をした。
「僕の兄をご存知ですか?」
くしゃっと笑う顔。
もともと大きくはない目がさらに潰れて、糸のよう。
つり上がった口角と白い歯。
頬にできた歪なえくぼ。
「え?」
そのお世辞にもイケメンとは言えない、ただ優しそうで、温和な青年。
年は私より下だろうか。
「ごめんなさい…」
顔を下に向け、彼の視界から外れる。
笑う声が、その喉元からくる声が、声質が
あいつとそっくりで、
全く似つかない顔なのに、
なんでだろ、どうしてだろ、
一瞬「あいつ」元カレに見えてしまったのは。