第1章 傷心旅行
「え?あ、!ごめんなさい!」
しっかり前を確認していなかった私に、その私とぶつかってしまったらしい男性の声。
「うわ…大丈夫ですか、その、服…」
「へ?」
どうやら男性はバーで飲んでいたようで、手にはグラスワインを持っていた。
「すいません…俺、弁償します」
なんのことかと思った矢先、お気に入りの服が紫色に染まっていることに気づいた。
「いえ…大丈夫です」
男性は私よりも年上だろうか。
黒のパーカーでラフな格好ではあるものの、毛先を遊ばせていて、ガタイがいい。
さっきの青年とはまた違った雰囲気のお兄さんだ。