第8章 会いたくない
「…っと」
その字列、吉野さんのメールアドレスだと思ってもいいんですよね…?
「…」
メールひとつ送るのに、こんなに時間を使ってしまうなんて。
気がつけばもう30分は経過していた。
さっさと事を済まそうと、浴槽にお湯を張り、たっぷり泡立てた洗顔剤に顔を埋めた。
きめ細かい泡が私を優しく包んでくれる。
きっと疲れてたんだ、色々あって。
だから幻聴なんて聞こえてしまったんだ。
肌に絡みつく感覚。
舌の這う温度。
繊細な奥部。
胸の中のしがらみを無くすのがこの旅行の目的。
体を重ねることで解消できていそうで、なんだか怖い。
「あいつは、今ごろ有香と…」