第3章 期間限定ドーナツ
その後、プリッツを使ってポッキーゲームをするのを「プリッツゲーム」と呼ぶのか「ポッキーゲーム」と呼ぶのかで会話が白熱しだしたものの、ブン太の帰還によってあえなく打ち切られてしまった。残念。
戻ってきたブン太に、プリッツを口でべきっと折りながらみっちゃんが尋ねた。
「丸井はどこ行ってたの」
『この時間はだいたい購買にデザート買いに行ってるんだよー? 気が早いよね』
「あのなぁ、期間限定なんだから仕方ねーだろぃ」
「限定スイーツとか、おまえは女子か」
『そこはほら、ブン太だから』
「そうね、丸井だから仕方ないわ」
「どういう意味だソレ」
いつの間にかプリッツを一緒になって食べていたブン太の机の上には、プリンとピンク色のドーナツが一つずつ鎮座している。購買はたまに期間限定でパンやデザートを出すけど、今の時期はイチゴショコラドーナツだったはずだ。
ココア風味の生地にたっぷり掛かったイチゴチョコの香りに誘われて、腹の虫が声高く鳴いた。唯一の救いは予鈴にかき消されたことだったけど、ブン太は気づいたらしく、まん丸な目をこちらに向けた。みっちゃんにも聞こえたようで、こちらは笑いをこらえている。
「なんか風華のこれ、お腹が鳴る音のお手本って感じがするわ」
『みっちゃんひどい』
そんな机に突っ伏してプルプル肩を震わせながら言われるとなかなかに傷つく。何がと聞かれるとよくわからないけど。
「丸井もなんかあげなよー。この子、今日プリッツしか食べてないんだってさ。んじゃ」
起きあがったみっちゃんはもはや半分笑いながら、こう言い残してA組に戻っていった。見送るうちに、なんか、ポッキーゲームでもプリッツゲームでもどうでもよくなってしまった。