第6章 報酬は水色のアイス
予測していなかった話題の登場に、反射的に肩が強ばる。
そーですよねー、そりゃ叱られますよねーと身構えていると、そんなこちらの様子がおかしかったのか、幸村くんはクスクス笑い出した。
「そんな緊張しなくても良いじゃない。別に怒ってはいないんだから」
『ここは普通、叱られる場面だと思うんだけど……』
「俺はね」
そこで言葉を切って、彼は真剣な表情でこちらに向き直る。こんな顔を目にしたのもいつ以来になるだろう。
しかしそれよりも、話の流れが危うい方向に行きかけているとあって、私は内心焦り始めていた。
「その理由を知りたいんだ」
ごまかすように、大げさな溜息をつく。同時に体の緊張も解ける。
『寝坊した、って言っても、その様子じゃもうバレてるっぽいなぁ』
「君に関しては、色々と前例があるからね」
『前例、か』
立海大付属中の男子テニス部に所属する女子マネージャーの退部率が、ここ三年で上がったと言っていたのは柳君だっただろうか。理由は至極まっとうで、気軽に入部した子がその部活の厳しさに耐えられずに辞めて行くのが殆どだった。遊びたい盛りの年頃には我慢できなかったのだろう。
強豪の看板に恥じず、うちの部も普通の所よりは練習も遠征もスケジュールぎっちりなわけで、遠征の帯同マネージャーともなれば、そのためだけに貴重な休日を丸々潰して他県まで付き合わされる、なんてことも結構多かった。帰りの高速バスの中で疲れて熟睡していたら寝顔を写メられて起きた、なんていうのはしょっちゅうある。
それでも、真面目に仕事をこなしていた子はいた。しかし彼女たちもある時を境にして、急にぱたぱたと来なくなり、退部届けを提出することが多くなった。
不自然な事態に首を傾げてはいたけれど、部活に勉強にと忙殺されていてあまり深く考えなかったのが悪かったらしい。同じクラスの子が退部した翌日の朝、唐突に嫌がらせは始まった。丁度去年の今頃だった。
一口に嫌がらせと言っても、そんな暴力的なものではない。無視に始まり、いつの間にかクラスのSNSからも外されていたり、上履きが消えたりと、割と湿っぽくてテンプレな内容を一通りされたのだ。