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しょうが【立海】

第6章 報酬は水色のアイス


『久しぶり、幸村君』
「……空乃さん? 驚いたなぁ」
『急にごめんね。今、時間だいじょうぶ?』
「うん、大丈夫だよ」

 まさか幸村くんのきょとんとした顔を見られる日が来ようとは。
 そんな謎の感慨を抱きながら、花束を花びんに移すためにちょっと席をはずす。
 彼が倒れたのは去年の秋頃だった。その後引き継ぎでやら何やらで大いにごたごたしたから、レギュラー揃ってお見舞いに行けた時にはすっかり季節が変わってしまっていた。
 そのとき赤也くんが張り切って持ってきたのが鉢植えで、レギュラー陣に不吉だろと盛大に突っ込まれていたんだけれど、幸村君の「土いじりが恋しくなってたんだよね」という鶴の一声でその場は丸く収まった。

『咲いたんだね、鉢植え』

 その時の鉢植えが出窓にあることに、病室に備え付けられた洗面台から振り向いて、初めて気がついた。
 最初は新芽だけで何の花か判らなかった鉢に、今ではすらりとした茎が伸びて、黄色い花を付けている。その隣に花びんを並べて、改めてベッドサイドの椅子に腰掛けた。

『うちのチームカラーとは、赤也くんもなかなかやるなぁ』
「苧環って言うんだよ。花言葉は確か……《勝利の誓い》だったかな」

 他愛も無い話で間をもたせる。近くで見ると、前より細くなっている様に思えた。単にテニスをしている時の覇気というか、ピリピリした雰囲気が無いせいかもしれない。
 筋肉が落ちたとは、あまり思いたくなかった。

「……それにしても珍しいね」
『え、何が?』
「この前、遅刻しかけたって聞いたんだ」
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