第5章 思い出のショートケーキ
夕暮れの光が射し込む校舎内は、もう大半の人が帰ってしまっていて静かだった。到着した昇降口には桑原君だけがいて、ブン太はちょっと呼ばれてどっか行ってしまったらしいと事情を聞いた。
「すぐ戻る、だと」
『また告白か、相変わらず忙しいねぇ』
「呼びに来たのは女子って言ってないんだがな」
そう笑って、おごりだ、と桑原君が手渡してきたスポーツドリンクに口を付ける。お礼の後にこくんと飲み下して、はじめて外がだいぶ涼しくなっていたのかと気づいた。
ブン太を待つ間の手持ち無沙汰を、雑談で紛らわす。そういえばと先刻のボタンの話に触れてみると、桑原くんは思い当たる節にぶつかったらしく、「そういうことか」と苦笑している。
『何かあったの?』
「いや、今日はやけに急いで帰り支度してたから、珍しいとは思ってたんだ」
支度が終わるや否や、弾丸のように……とはいかずとも、早歩きで部室を飛び出して行ったらしい。真田や柳生がいる手前、廊下を走れなかったんだろという言葉を聞いて、あの二人風紀委員だったもんなーと思い出す。
「アイツ、空乃には甘いよな」
『単に子ども扱いされてるだけな気もするけどね』
「そうか?」
『そうだよー、人の事まで自分で面倒見ようとするの。だから、色々と桑原くんに投げてるの見た時はびっくりしちゃった』
「そういうもんなのか」
『そういうもんだよ』
話が途切れて、スポドリをぐいっとあおった。視線を感じたから桑原くんにも飲むかと勧めたら、無言で頭をぽんぽんされた。