第5章 思い出のショートケーキ
『ブン太呼び出した子ってさ、大人しそうな感じの女の子でしょ?』
撫でられた気恥ずかしさをごまかす為に、そんな言葉をこぼしてみる。桑原君がちょっと驚いたような表情をしたから、ほら、髪型がこんなかんじでちょっと内股で、話すときに下向き気味の……と静かに畳みかけてみる。
「言われてみればアイツとも顔見知りっぽかったが、知り合いか?」
『知らないけど、ここのところいつもブン太にお菓子差し入れに来てたんだよ。だからその子かなって』
「なんというか、告白だとしたら断りづらいな、それ」
『わざとかは知らないけど、心理学のテクニックでもそんなのがあるって、仁王に聞いたことがあるよ』
小さな借りをあらかじめいくつか作られちゃうと、その人に頼みごとされたときに、罪悪感で断りづらくなる、らしい。
いつぞやのお昼の時に、仁王がクリームパンをかじりながら言っていた内容をそのまま伝える。まだあの後輩が通うようになってすぐの頃だ。あの後、ブン太がいない席で、私についても仁王はいろいろ突っ込んできた。「しょうがは好きか」とか、そこらへんをいろいろ。
「意図的だとしたら女って怖いな……」
『うん、怖いね……』
女も怖いがペテン師もなかなか怖い。あいにく彼の質問で問われた「しょうが」の意味はわかっていたから、答えもそれなりに差し障りないものを返せたはずだ。
「悪ぃ悪い、待たせたな」
そんな話をしていたら、待っていた幼なじみがやっと帰ってきた。
なんと彼女持ちになっていた。