第4章 熱気を食らう
「あ、次走るの丸井と紳士じゃん」
『えー、ほんとにー?』
じゃあそろそろ行くかぁ、とのっそり立ち上がると、暑さのせいか少しめまいがした。そういえば今日、水もあんまり飲んでないなぁと思いながら、休憩終了を知らせるホイッスルを遠くに聞く。
スタートした二人に声援を送りつつ、みっちゃんとだらだら歩いてトラック前に整列した。
『こういう順番待ちってさ、無駄にドキドキするよね』
「遠足前の小学生か」
こうして話している間にも、前に並んでいる子がどんどん向こうに走り去っていく。わりと好き勝手に並んだのに、タイムがわかればいいのか、先生からのお咎めは無かった。列の一番後ろにいた私たちにようやく順番が回ってきたとき、靴紐を結びながらみっちゃんが言った。
「小学生と言えば、風華って小学生の頃、スターターピストル苦手だったんだってね?」
『え』
何で知ってるの聞くと、丸井が言ってたという案の定な答えにため息をつく。クラウチングスタートの姿勢をとると、100メートル向こうで「タイム計測の準備できたぜ」と言わんばかりに合図用の旗を振っている幼馴染を無言で睨みつけた。誰にも言うなって言ったのに、あんにゃろう。
…
「風華さ、やっぱ、陸上部来るべきだって」
『むり、まじむり』
十数秒後、私とは浜に打ちあげられた魚みたいにぜーはーしていた。心臓が頭の中にあるみたいにうるさい。
個人的に、陸上部のみっちゃん相手にかなり善戦した気がする。それもこれも、ゴールにいるブン太に通り過ぎざまにパンチの一つでもくれてやろうと考えたからだろう。怒りってすごいと思ったけれど、途中からみっちゃんとの勝負に頭がシフトして、結局ブン太をはたけずじまいだった。それにしても、少し全力を出しすぎたかもしれない。
「風華?」
不意に視界がぐにゃりと歪む。同時に、バランスを崩して地面にしゃがみ込む。
「あらら、大丈夫?」
『……んー、きもちわるい』
心臓の音に合わせて、俯いた頭が鈍くがんがんと痛んだ。えづきそうになるのを気力で飲み込んで落ち着くのを待つけど、どうにも収まりそうにはない。