第6章 傷 【青峰】
あの日、ゆりはすぐに男と別れた。
相手もすんなり受け入れたらしい。
『やっぱり…あっちもとっくに気持ちなんて
なかったんだね。私、損したかも。』
そう言って笑っていたゆりを思い出すと
なんだか心苦しくなる。
あの次の日から俺たちは正式に付き合い始めたが、
まだ言ってしまえばキス止まり。
身体の傷はあまり見られたくない。と
言っていたのが気になっていたからだ。
ここ1ヶ月はゆりも病院に通い、
傷もだいぶよくなってきている。
俺はなんだか気分が良くなって
その日の部活はかなり調子が良かった。
そして、部活が終わり、ゆりに
連絡を入れようとケータイを見ると、
“図書室にいる”とメッセージが入っていた。
俺は着替えを済ませ、体育館を出る。
階段を上って図書室へと向かう。
辺りはもう薄暗くなってきていた。
図書室へ足を踏み入れると、
大きな机の上に突っ伏して眠る
ゆりの姿があった。
白くて長い指が押さえている本に
目を落とし、チラッと中身を読んでみれば
それは恋愛小説だった。
「(こいつ…意外とこーゆーの読むんだな…)」
ふとしたところでこいつの一面が見れるのが
柄にもなく嬉しいと思ってしまう。
俺はそんな気持ちを隠すように
眠っているゆりの頬を指先で撫でた。
「んん…」
でも、こいつは寝起きが悪いのか、
眉を寄せただけで起きる気配がない。
「おい…ゆり。起きろ」
サラサラの銀髪を指で梳きながら
俺は机に乗りかかった。
「ん…大輝…」
「…っ?!」
俺は再び顔が熱くなる。
名前で呼ばれたのは今のが初めてだ。
寝ぼけていたとは言え、ドキッとしてしまった。
「ゆり…帰るぞ…」
「ん…?青…?」
目を擦りながらゆっくり起き上がるゆり。
「お疲れ様ぁ」
ふにゃっと笑って俺の膝を叩く。
「んなとこで寝てたら風邪引くぞ。」
「…ごめん。いつの間にかウトウトしてたみたい」
カバンを持って立ち上がるゆりに
続いて、俺も図書室を後にした。