第6章 傷 【青峰】
着替えを持ったまま
カウンター越しにちらりとゆりを見ると
バチンと視線がぶつかった。
「…?早く入って来ちゃってね?
ご飯冷めちゃうかも。」
小首を傾げながら言葉をかけてくるゆり。
「あ…あぁ。わりぃ」
なんだか新婚夫婦みたいだな…なんて
おかしな事を考えていたなんて、言える訳がない。
俺は若干しどろもどろになりながらも
返事をして風呂場に向かった。
風呂のドアを開ければ鼻を擽る
ゆりと同じ匂い…。
「(あいつの匂いって、これか…)」
浴槽に張ってあるお湯に溶かされている入浴剤。
バニラのような甘い匂いだ。
身につけた服を脱いで浴室に足を踏み入れる。
いつもより熱めのシャワーを浴びて
髪や身体を洗っていく―…
洗い終わった後で浴槽に身体を沈めると
部活での疲れが吹っ飛ぶみたいな感覚。
家では中々ゆっくり湯船に浸かって
疲れを取ることなんてない。
風呂は汗を流せればいい。なんて思ったりしていたが
案外湯船に浸かるのも悪くねえなと思った。
しばらく風呂で身体を温めた後、
身体を拭いて持ってきていたシャツの袖に
腕を通し、タオルで髪を覆って部屋に向かえば
いい匂いが鼻を擽った。
「あ。ナイスタイミング。」
その声の方を見れば、ゆりがテーブルに
作った飯を並べている所だった。
「座ってていいよぉ。」