第6章 傷 【青峰】
ゆりSIDE
「俺にしとけ…」
青は確かにそう言った。
私は抱き締められたのと青の言葉とで
軽いパニックを起こしていた。
先輩の事は嫌いなんかじゃない。
むしろ、この傷をつけることがなければ
最高のパートナーだ。
自分が先輩に対して気持ちがないと自覚したのは
つい最近の事…。
事情を唯一知っているさつきに気付かされた。
『ゆりはさ…先輩といて、楽しいと思うの?』
そう尋ねてきたさつきに、私はすぐに答えられなかった。
『キスは?Hは最近いつした?』
…分からなかった。そんなの忘れてしまった。
多分、もう随分とそういう恋人らしいことは
していないと感じた。
『…分からない…かな。』
そう答えた私の首元にさつきが抱き着いた。
『私は…ゆりがこんなにボロボロになるの
見てられないよ…』
肩が…震えてる。きっと泣いているんだろう。
『ゆりはもっと…自分にわがままになって
いいんだよ…?もっと…大切にしてくれる人が
いるはずなんだよ?』
大きな瞳を涙で濡らして訴えるさつき。
『ゆりは前に言ってたよね?両親や家族が
亡くなったのは自分のせいだって…違うよ?
そんなことない。あれは事故。ゆりのせいなら
ゆりのおじいちゃんやおばあちゃんがここまで
大切にしてくれるはずないもん!もっと自分を
大事にしよう…?』
鼻を啜って私の胸に抱き着くさつき。
『…そっか…そうだよね…』
自分でも知らぬ間に呟いていた。
『青峰くんだっているよ?私だっている。
もっと…頼ってよ…ゆり。』
『うん…ありがとう、さつき』
つい先日のさつきとのやりとりが走馬灯のように
頭の中を駆け巡っていた私。
「ゆり…」といつもより低い声で私の
名前を呼ぶ声にハッとした。
「俺にしとけよ…」
段々と抱きしめる力が強まり、私は思わず
眉を寄せた。
「青…痛い…」
痣がズクズクと疼いて身体に警告を出している。
「悪い。」
抱き締める力は弱まったものの、身体が
離れる気配はない。
「好きなんだよっ…」
振り絞るように出された声に私の目は
更に大きく見開かれた。