第6章 傷 【青峰】
「「………」」
しばらくお互い沈黙が走る。
「お前さ…」「青さ…」
どうしたものかと口を開けば、同じタイミング。
「あ?」「ん?」
眉間に皺を寄せる俺と、カクンと首を傾げるゆり。
「なんだよ?」
俺が先に尋ねると、ゆりは目を伏せた。
「あんまり聞きたくないけど…見えたんでしょ?」
自身を抱き締めるようにして肩に手を回すゆり。
「……まあ…な」
俺はバツが悪くなって目線を逸らした。
「学校でも言ったけど、事情知ってるのはさつきだけ。」
そう言うと、ゆりは何を思ったのか、急に
着ているジャージのファスナーを下ろし始めた。
「………」
傷を見せようとしてるのが分かった俺は
特に慌てることもなく目線を逸らして待つ。
「…ほい」
声と同時に目線を上げると、俺は思わず息を飲んだ。
眩しいくらい白い肌には似合わない青黒い痣。
俺が先程見たのはほんの一部だったようだ。
夏服でも見えないよう、制服で隠れる範囲にしか
作られていない痣。
そして、腕にはいくつもの火傷の傷跡。
絆創膏が2、3枚貼られているところは傷が新しいようだ。
血が滲んでいて痛々しい。
「お前…なんでそんな…」
「ん?タバコなんて吸ってないよ?未成年だから」
対して慌てる様子もなく、首を傾げるゆり。
「ばか!そんな問題じゃねぇよ!誰にやられた?!」
思わず前のめりになって尋ねる俺。
「誰って…先輩しかいないでしょ?」
こいつはおかしくなったのか?
そんなんなら普通別れるだろ?
いつからされてんだ?
なんで誰にも相談しないんだ?
なんで普通にしてられるんだ?
数え切れねえくらいの数の質問が一気に
頭を駆け巡る。
それを見透かしたかのように、ゆりが口を開く。
「私は多分…狂ってる。
先輩が私に手を挙げ始めたのは付き合い始めて
1か月くらいだったと思う。でも、こんなの別に
私が我慢すればいいだけだから。誰かに相談したところで
その人に迷惑かかっちゃうだけだし。
先輩も…普段は優しい人だから。」