第6章 傷 【青峰】
学生の女が1人住むのには丁度いいサイズの部屋だった。
家具も少なく、少し寂しく感じるくらいの部屋の
端には白い縦長の柵が1つ置かれていた。
「…?なんだよ、あの籠みたいなの」
俺が尋ねると、ゆりはソファにかばんを
放って振り返る。
「ん?ああ、サークル?私、ネコ飼ってるって
言わなかったっけ?」
そう言いながら俺の足元を指差す。
「あ?」
その指の指す方を見ると、俺の足元には
いつの間にかブルーの首輪を着けたグレーのネコが
座って俺を見上げていた。
「にゃーん」
「ぉわっ?!」
俺と目が合うなり鳴くネコに、俺は驚いた声を上げる。
「ふふっ。誰?って言ってるのかも」
キッチンに立ったゆりが嬉しそうに話す。
「分かるのか?」
「なんとなくね。もう3年くらい一緒にいるし」
「ふーん」と相槌を打つ俺の足にネコが擦り寄ってくる。
「なっ…なんだよ…」
慌てた俺は思わずネコの前に座り込む。
すると、ネコは俺の膝に脚を乗せ、俺の顔に
自分の顔を寄せてきた。
「“こんにちは。僕シャル。君だぁれ?”
ってところかな?」
大きめのグラスを2つ抱えたゆりが
喋りながら俺の前を通る。
「シャル、青って言うんだよ」
俺のあだ名をネコに言えば、本当に分かっているかの
ように俺の鼻をくんくんと嗅いで「にゃおん」と鳴いた。
「珍しいよ、シャルがすぐ出てくるなんて。
さつきが来た時は3時間くらい隠れて出て来なかったから。」
コトッと音を立てて置かれたグラスには
アイスコーヒーが注がれていた。
「さつきは昔から動物に嫌われるからな。」
シャルの頭を撫でて、俺もテーブルに着く。
「ミルクとシロップ何個?」
引き出しの中を漁りながらゆりが尋ねてくる。
「1つ」
短く答えれば「は〜い」と間延びした返事が返ってきて
言われた個数のシロップとミルクが手渡される。
「あぁ、さんきゅ。」
カランっと軽快な音を立てるグラスの中をかき回せば
コーヒーはすぐに色を変えた。