第6章 傷 【青峰】
ゆりの肩口に見えた青黒い痣…
しかも1つなんかじゃねえ。
無数の痛々しい痣が俺の視界に飛び込んでくる。
そして、折れそうなほど細く白い二の腕には
絆創膏が何枚も貼られていたが、見えてしまった。
これは…火傷の痕…。
俺は目の前が真っ暗になるようだった。
「お前…」
そう呟くのがやっとだった。
「わぁ…見事にボタン千切れてるよ…」
当の本人はそこまで慌てる様子もなく、
すぐに胸元を隠してボタンを拾い始める。
「なんだよ…今の…」
そう言うと、ゆりはにっこりと笑って振り返る。
「ん?どうかしたの?」
見えていないと思っているのか…
いや、この笑いはただの誤魔化しだ…
俺でもそのくらい分かる。
「誤魔化すなよ」
俺はゆりの細い手首を掴んで引き寄せる。
顔を覗き込めば、ゆりは諦めたように目を閉じた。
「今日…家に来ない?」
「…は?」
いきなり誘われて俺は目を見開いた。
「ん?私一人暮らしだし。あと…ここじゃ話しにくい」
そう言うことか…他人に聞かれたくはないはずだ。
「ああ。わかった…。その前に、これ着とけ。」
カバンからジャージを取り出して肩にかけてやる。
「自分で持ってるよ?でも…お言葉に甘えようかな」
そう言ってゆりはジャージに腕を通した。
「事情を知ってるのは…さつきだけ」
靴を履き替えていると、ゆりはそう言った。
「…なんで俺には言わねんだよ」
俺が顔も向けずに尋ねると、ゆりはすぐに返事をする。
「さつきはカンが鋭いでしょ?話したんじゃない。
バレたんだよ…本当は誰にも話す予定じゃなかった…」
顔は見ていないが、暗い表情をしているのだろう。
声のトーンはかなり低めだ。
「誰にも言わないって約束で、全部話した。
ただそれだけだよ」
そこで会話は途切れてしまい、俺達は学校を出た。
うちの生徒の姿は全くと言っていい程なく、
学校のすぐ近くだと聞いていたゆりの家には
ものの10分ほどで着いた。
「ん。どうぞ。鍵は掛けておいてね」
「おう。」
言われた通りに鍵をすぐに掛け、
スリッパに足を通す。
玄関から既にゆりの匂いでいっぱいの家。
ゆりの後を着いて行き、部屋に入る。