第6章 傷 【青峰】
「…だってさ、さつき。私が説得しとくから
今日だけサボらせてあげてよ」
困った顔で言うと、さつきは「もう!」と
答えて、「明日は絶対だからね?」と念を押す。
「あぁ…気が向いたらな」
俺が答えると、さつきはため息をついて
「じゃあゆり、お願いね?」と言い残し、
教室を去っていった。
「んじゃぁ、帰ろうかな。」
席を立ち上がり、かばんを肩にかけるゆり。
「ちゃんと明日は行ってね?じゃないと私も
さつきに怒られちゃうから」
ウィンクと共にいたずらっぽく言うゆりに
俺はまた柄にもなくキュンとしてしまう。
何度も気持ちを伝えようとした。
でも、こいつは彼氏がいて、俺はこいつのただの友達…
それがどうしても引っかかって。
さつきからも彼氏とはうまく行ってると
聞かされていたため、それならいいかと思っていた。
2人で雑談をしながら階段へと向かう。
そして階段を下りていこうとするゆりと反対に
階段を昇ろうとする俺。
ほんの半歩僅かに後ろを歩いていた俺がじゃあなと
声をかけようとしたときだった。
振り返ったゆりの足が階段を踏み外した。
「えっ…?」
「おいっ…!!」
持ち前の反射神経で咄嗟に手を伸ばす。
しかし、僅かに遅く、俺の伸ばした手は空を切った。
「(やべぇっ…!!)」
瞬時に反応した俺は駆け出す。
大きく傾いた身体をどうにかしようと、
俺はゆりの制服の裾を掴んだ。
ぐいっ!!
ばつっ!!
嫌な音が耳に障った。
咄嗟に引いた制服。
俺の胸に飛び込んできたゆりの身体を
しっかり抱き留めて2人で座り込む。
「…ってぇ」
「いたた…ごめん」
見下ろすと、ゆりの綺麗な銀髪が目に入る。
「大丈夫か?」
俺が尋ねると、ゆりは顔を上げた。
「ん…ごめん、ドジった…」
すると、お互いの顔が息のかかりそうな程の
至近距離にあった。
「っ…」
俺はらしくもなく顔に体中の熱が集まったような
感覚に陥った。
俺の身体の上に乗っかっているゆりの上半身は
制服の裾を思いっきり引いたせいでボタンが千切れ
肌蹴てしまっていた。
でも、俺が不意にドキッとしたのも束の間で…
違う意味で俺の心臓は脈打った。