第5章 努力 【宮地】
俺が向かったのは視聴覚室。
だいたい問題起こした生徒はここに
呼び出される。
視聴覚室の前に立ち、耳を澄ますが、
会話も聞こえてくることはなく、しんと静まり返っていた。
「(もう話は終わったのか…?)」
俺はそっと扉を開けてみる。
すると、教室の丁度中央辺りでゆりが
机に伏せている姿を見つけた。
話は終わっているのか、先生の姿はない。
俺は躊躇うことなく教室に脚を踏み入れた。
俺の気配に気付いたのか、肩を少し揺らして
ゆりが反応するが、顔を上げる事はない。
「…終わったんか?」
ゆりの前の席に腰掛けて、頭を優しく撫でる。
「…………ん。」
消えそうな声で答えるゆり。
「俺らのこと、庇ってあんなになったんだってな?」
俺が告げると、ゆりはガバッと顔を上げた。
「誰に…聞いたの…」
普段から大きな目が、更に大きく見開かれる。
「さぁな…?」
俺は悪戯っぽく笑って、指先で頬を撫でる。
「…高尾か裕也か、その辺でしょ…」
理由が理由なだけに少し恥ずかしいのか
視線を大きく逸らして小さなため息をつくゆり。
「…まぁ、そんなとこだな」
さらさらの銀髪が夕日に反射して眩しい。
「…別に、謹慎とか、停学とかはないって。
監督がうまいこと言ってくれるってさ。」
窓の外に目線を投げて、ゆりが答える。
「お前さ…もうちょっと後先考えてモノ言えよ。
男にあんな口利いたら、そりゃ逆ギレされんだろ…」
俺がそう言うと、ゆりはバツが悪そうに俯いた。
「だって…人の努力を笑うから…許せなかった。
…努力してない人なんて、バスケ部にいないよ!!
3年もマネやってればわかるもん!」
俺に訴えかけるように思わず椅子から立ち上がったゆり。
「努力は人を裏切らない、その結果だ、って
言ったら、あいつキヨの事言ってきた。
努力して来たんならバスケ部入ってすぐにスタメンに
なれたはずだろって…それこそ技術の努力なんてせずに
監督や主将への媚売りの努力だったんじゃねえの。
って言われて…つい、カッとなった…」
そこまで言って、睫毛を伏せる。
俺は椅子に座ってゆりを見上げていたが、
フッと笑って、椅子から立ち上がる。