第5章 努力 【宮地】
「ゆりに聞いても理由を話してくれなかったんだ。
宮地が聞いてみても、全く答える気がなくてな…」
大坪が答えると、高尾を見ていた裕也が口を挟む。
「そりゃあ、兄貴達には言わないっすよ。
だって、あいつ兄貴達のことで揉めてるんすもん。」
サラッととんでもない事を言う裕也。
「はぁっ!?裕也、その話、詳しく聞かせろ!」
「なっ…なんだよ、急に」
俺が食いついてきて驚いたのか、裕也は
目を丸くしていた。
「じゃ、俺が説明しまっす!」
はいはい!と挙手をして高尾が答える。
「ゆりさん、俺達が入ってすぐに辞めさせられた
あの先輩から、宮地さん達のこと悪く言われたらしいすよ。
俺は正直名前も覚えてないッスけど。」
すると、黙って聞いていた緑間も口を開いた。
「俺達の中で、人事を尽くしていない人はいない。
しかし、今の先輩方は監督や前主将の贔屓で
スタメンに上がったとからかわれたようです。」
メガネのブリッジを上げながら答える緑間。
「んで、ゆりさんはあの性格だし、自分の事より
人の事が大事っしょ?だから、頭に来て
言い返したらしいっすよ」
高尾が得意げに答え、俺は納得した。
あいつは自分の事は良かれ悪かれ言われようと、
全く意に介さない節がある。
いつもふにゃりと笑い返してうまいこと受け流す。
しかし、それが仲間や友達の事となると
人が変わったように怒ることがある。
「そーいや、大分前にキレた時も
友達の男関係で友達が泣かされて〜…みたいな
感じじゃなかったか?」
裕也が顎に手を当てて考え込む。
…そうだった。以前一度キレたのも友達を
守るためだった。
なら、今回も俺達を庇うために…?
それなら辻褄が合う。
俺は、弾かれるように体育館を飛び出した。
「あ!おい宮地!」
と木村が呼び止める声も段々遠くなる。
「ひゅ~♪愛っすねぇ~♪」
高尾の冷やかしの声も、俺には届かなかった。
「(あのバカっ!もっと他にやり方あんだろっ…!)」