第5章 努力 【宮地】
ガッ!と鈍い音がして、すぐにドサッと
倒れる音がした。
周囲は騒然とし、悲鳴まで上がる始末だ。
俺は…いや、俺だけじゃなく、全員が呆然とした。
「ぅあぁ!!くそっ…!」
何故なら、その場に蹲っていたのは殴られたと
思ったゆりではなく、拳を振り上げた
男子生徒だったんだから。
「生憎、喧嘩には慣れてるから。」
そう吐き捨てて、ゆりは冷たく相手を見下ろす。
「謝って。」
相手を射殺しそうな程の冷たい目で言葉を紡ぐゆり。
俺でさえ、息を飲んだ。
「誰が…!!」
男子生徒は腕を抑えて蹲っているだけだ。
「謝んなよ。あんたの負けだ。」
すぅっとゆりの目が細められ、更に
迫力が増した。
すると、男子生徒はヒビが入りそうなほど
悔しそうに歯を食いしばって、「悪かったよ…」
と、消え入りそうな声で呟いた。
「…………よし!」
それを聞いたゆりは急にパッと表情を
明るくして、手をパンパンとはたいた。
「くそっ…」
そう呟いて男子生徒はその場を去った。
すぐに色々な野次が飛び交う。
中には「ゆりちゃんかっこいい~!」と
黄色い声まで飛び交う始末だ。
俺達はすぐさまゆりの元に駆け寄る。
「ゆり!!」
「なんだよ、あの騒ぎは!」
木村と大坪がすぐに問いただす。
「げ…!…今の、見てた?!」
俺たちの声を聞くと冷や汗を浮かべて
ゆりが小さくなる。
「見てたもクソもあるか!!轢くぞ!!!」
俺は回りも気にせず怒鳴りつけた。
「うわっ!ちょ!キヨまで…!」
焦ったゆりは困ったように眉を下げて
口を噤んでしまった。
「お前…ちょっと来い!」
俺はゆりの腕を引いて、木村と大坪もそれに続く。
俺達はミーティングを予定していた多目的室に
入り、デスクチェアに腰を下ろす。
「…で?試合前なのに、何考えてんだよ。」
俺がきつめの言葉で問いかけても、
ゆりはうなだれたまま顔を上げない。
「ゆり…何があったんだよ?」
優しく問いかける木村にも一切返事なし。
「………」
黙り込んだゆりの表情は、決して
反抗的な目ではない。
「(言いたくねえのか…よっぽどだな、こりゃ)」