第4章 嫉妬 【福井】
「…!?なんで泣いてんだよ!?」
ゆりは「えっ…?」と短く答えて、
瞬きを1つすれば、綺麗な涙が頬を伝った。
「あれ…ほんとだ…」
特に慌てもせずに指で涙を掬って見るゆり。
俺だけが何故か妙に焦っちまって、
親指で涙を拭ってやれば、こいつは俺の顔を
じっと見つめて、ふにゃっと笑った。
「うれし涙…かな」
頬を赤く染めて俺に告げるゆりは、
なんて言うか…すげぇ愛くるしかった。
「嬉しいと、ほんとに涙が出るんだね…」
涙を拭った俺の手を自分の頬に当てて、
幸せそうな、安心したような顔をするゆり。
俺は、その顔と仕草を見て、引き寄せられるように
もう片方の手でこいつの顎を掬う。
「………っ」
何をされるのか検討のついたゆりは、
慌てたように視線を泳がせる。
でも、やがて近づく唇に観念したのか、
そっと睫毛を伏せるように目を閉じた。
ちゅ…とリップ音が聞こえて、優しく重なった
こいつの唇は熱を持っていて、熱かった。
唇が離れて視線が絡み合う。
すると、ゆりは俺の胸に顔を埋めた。
「………恥ずかしぃ………」
聞こえるか聞こえないかくらいに囁かれた言葉。
どうしてこんなにかわいいのか…
「あぁ~…俺もハズい…」
これまでにないくらい心臓は早鐘を打っている。
また抱きしめてやって、銀色の髪に唇を寄せれば
優しい甘い匂いがした。
この日からゆりと付き合うことになって、
倦怠期や喧嘩も無く、楽しく過ごしてきた。
俺の我儘でゆりが俺を名前で呼ぶようになり、
俺たちが3年になって、初めて身体を重ねた時は、
また嬉しいって言って、こいつが泣いて…
クラスが一緒になって、後輩が入ってきて…
敦や氷室がすぐにゆりに懐いて、ヒヤヒヤはしたものの
2人で帰れば優しく俺の手を取って「私は健だけだよ?」
とか言ってその日は存分に甘えてくれたっけな…
そんなことをぼんやり思い出していれば、
呼びかける声に意識を引き戻される。
ゆりは少し不安気な顔をして「健?」と尋ねてくる。