第4章 嫉妬 【福井】
「どーした?」
「ん?なんか、ちょっと疲れただけ。
人混みって、どーしても苦手で。静かな所ないかなって
探してたら、いつの間にかここにいた」
銀色の髪を耳にかけながら儚げに微笑むゆり。
なんだか、今捕まえておかないと、どこかに消えてしまいそうだ。
俺はそんな感覚を覚えて、ゆりの隣に立つ。
すると、ゆりはふぅっと溜息をついて、
フェンスにかけた自分の腕に顔を埋めた。
やはり、元気がない。
あまり詮索は好きではないが、こいつの事となると
どーしても気になってしまい、尋ねてしまう。
「ん…やっぱ何かあったんだろ?話してみ?」
俺が指先で頬を撫でれば、ゆりは力なく微笑む。
「…今日、両親の命日なの。」
それを聞いて、俺はしまったと思った。
他人に話したくなかったかもしれない。
「…そっか。悪かったな…」
気安く詮索したことを詫びる。
「んーん。ただ、それで気持ちがナーバスに
なってただけ。福井くんは何も悪くないよ」
ゆりの両親はゆりが幼い時に事故で
他界していると聞いたことがある。
今日が、その日なのだろう。
「いや…誰にでも話したくないことの1つや2つくらい
あるもんだろ。詮索して悪かった…」
思わず俯いてしまう俺。
「んーん…むしろ、福井くんには聞いてほしいくらいかも」
微笑んだまま、俺の方を向いたゆりの目には
うっすら涙が滲んでいた。
「……っ」
その今にも崩れ落ちてしまいそうな雰囲気に、
俺は完全に呑まれて…気がつけばゆりを抱きしめていた。
「わっ…!ふっ…福井くん?!」
慌てる素振りはあったが、嫌がって離れようとする様子はない。
「わり…ちょっとだけ…こーさして」
初めて触れたゆりの身体は今にも折れそうなほど
細くて…柔らかかった。
そして、甘くて頭がクラクラするくらいのいい匂いがした。
しばらく抱きしめていると、ゆりの身体が動く気配。
「(やべっ…ちょっとだけって言いながら…嫌がられっかも)」
焦りを覚えて身体を離そうとした時。
細い腕が俺の背中に回された。