第4章 嫉妬 【福井】
俺がちゃんとした返事をしないもんだから、
やはり怒っている、と取ったのか、こいつは
俺の服を抱えたまま、デカイ目を涙で濡らしていた。
「ばっ…!なんで泣くんだよ?!」
突然の涙に焦った俺は思わず立ち上がる。
あっという間にいつもの俺がこいつを見下ろす
形にもどっていた。
「もう…嫌いになった?」
ついに瞳からポロッときれいに涙が落ちたのが見えた。
何をどう取ったら嫌いに結びつくのか…
さっき廊下であんな熱い口付けを交わしたのに。
「あんなぁ…俺がお前の事、嫌いになんてなると思うか?」
背中を摩りながら、涙の後を辿ってやる。
「そんなの…わかんないよ…」
驚くほど綺麗なガラス玉みたいな涙が俺の服を濡らす。
そっとゆりが俺の胸に寄りかかった。
「私…健がいないと生きていけない…
健じゃなきゃ…嫌だよ…」
まるで独り言のように呟いて泣くゆり。
そんなかわいい事言うもんだから、俺は
胸の辺りがきつく絞められるような感覚に捕らわれる。
ギュッと抱きしめてやって、俺は口を開く。
「お前がもし他の誰かを好きになろうが、
他の誰かがお前の事奪いに来ようが、俺はお前を
手放す気はさらさらねぇよ…そんくらい、好きだからな」
想いを伝えてやれば、ほんの少しだけ抱きしめていた
ゆりの肩がピクリと反応する。
そして、僅かな沈黙の後。
「私も…健だけが…好き」
そう言ってくれた。
そしてようやく顔を上げて俺を見上げたこいつは、
今までで一番綺麗な笑顔だった。
すると、するりと俺の首にはこいつの細い腕が
回されて、唇に柔らかい感触を覚えた。
それがキスだとわかるまでに時間はかからなくて。
俺たちは夢中になってキスに溺れて行く…
すぐにゆりは力が抜けて立てなくなり、
俺がベッドへと抱えてやる。
結局着替える事のなかった敦のジャージ。
俺はすぐにファスナーに手をかけ、下ろしてしまう。
「やっ…ちょっと…健っ…!」
恥ずかしいのか、俺の手をどけようとするゆり。
「何…?脱ぎたくねぇの?そんなに敦のジャージ、
着ててぇ…?」
耳元で低くて甘い声で囁いてやれば、こいつは
すぐに赤くなって、「…違ぅ…けど…」と俯く。