第4章 嫉妬 【福井】
ゆりSIDE
部活の前にジャージに着替えて、
ドリンクや、洗っておいたビブスを準備しておくのは
私のいつもの仕事だ。
今日ももちろんいつもと同じように準備を進めていた。
ビブスを籠に入れて、ドリンクを作るために
塩や粉末製のスポドリなどを準備して、前の日に沸かして
冷やしておいた水道水を冷蔵庫から出す。
…ここまでは普段どおりだった。
そして、ボトルを一旦濯ごうと、蛇口を捻る。
しかし…
「えっ?!固っ…?!なんで!?」
いつもは簡単に開くはずの蛇口が固い。
なんとか両手で開けようとしても、無理。
「(なんでぇ!?)」
秋田はこの時季から夕方はすぐに気温が下がる。
蛇口の水が凍ったりすることも珍しくない。
でも、凍ったりするのには季節が早すぎる。
どの蛇口を捻ってみても、一向に開く気がしない。
真っ赤になった手のひらを見つめながら、
途方に暮れていると、入り口から聞き慣れた声。
「あ~、いたいた、ゆりち~ん」
見れば、ヒラヒラと手を振りながら人懐っこい
笑顔を浮かべて歩いてくるむっくんこと紫原くん。
「あ、むっくん。こんにちは」
私が笑って挨拶すれば、彼は「うん~」と
いつもの間伸びした声で返事をする。
「どうしたの?もうすぐ部活始まるよ?」
「こないだ話してたまいう棒の新作買ってきたから
ゆりちんにあげようかと思って~」
はい。と差し出してくるお菓子はいつも彼が食べているもの。
「ハニーシュガーメープル味…なんか、甘いの
オンパレードだね…」
私が「ありがとう」と受け取れば、彼はふにゃっと
笑って、「おいしいよ~」と返す。
お菓子を受け取った後、私は、ふと思い出す。
「ねぇ、むっくん。水道の蛇口が固くて
開けられないんだけど、よかったら開けてくれない?」
私が言えば、「え~?」とめんどくさそうにするものの、
すぐに蛇口に手をかけてくれる。
「ん~、ほんとだ。固いね~。あ、開いたよ~」
やはり握力の違いか、むっくんに頼むと、
すぐに蛇口は開いた。
「わ!むっくんすごい!私全然開かなくてすっごい
困ってたの…ありがとう!」
お礼を言うと、「ん~、ゆりちんのためなら
お安い御用だよ~」とまたふにゃっと笑った。