第3章 文化祭 【赤司】
会場はいよいよ一番の目玉、ライブに入っていた。
他の部活動がロックやダンスなどを披露している中、
バタバタ駆け回る男子バスケ部員。
ついに、次が男バスの順番になってしまった。
伴奏である実渕はいるものの、ゆりを探しに出た
赤司まで戻っていない。
会場が本人たちが一向に出てこない事に気づき、
ざわめき始める。
見兼ねた実渕は、ついに1人で壇上に上がった。
「(もう!征ちゃんもゆりちゃんも、
どこに行ったのよ!!)」
内心叫びながらもニコニコしてどうにか時間を
稼ごうとする実渕。
3人と聞いていた観客がどうしたどうしたと騒ぎ始めた。
すると、会場の入口で別のざわめきが起こった。
「わぁ~!!」「きゃー!」と言った黄色い歓声が聞こえる。
そして、開けた道には、黒の燕尾服に身を包んだ赤司と、
綺麗なワインレッドのマーメイドドレスに身を包み
美しい銀髪をアップにまとめたゆりがいた。
「征ちゃん!ゆりちゃん!」
「赤司!ゆりちゃ~ん!」
「…ったく、ギリギリの登場かよ」
口々に安堵の声と若干の文句を耳にしながら、
ゆりは赤司に言う。
「ねっ…ねぇ…もう大丈夫だからっ…」
「もうたくさんの人に見られているよ?
今更ここから歩くのと、僕に抱えられたまま
ステージに登るのと、さして変わりはない。」
凛とした顔で言われると言い返しようがない。
私は黙って抱えられていることにした。
「大丈夫、君は強い。今までだってなんだって
完璧にしてきたじゃないか。僕を信じて。」
弾かれるように彼を見上げれば、
いつものように強気なような、安心感のあるような
表情で笑いかけてくれた。
「うん…!征ちゃんとなら…できる。」
そう言い切ったと同時に、ステージに上がり終えた。
征ちゃんは自分のバイオリンを手に取り、
玲央先輩はピアノに触れる。
私は丁寧にお辞儀をして、ふぅっと
小さく深呼吸をした。
会場にアナウンスが流れる。
『では、男子バスケットボール部による演奏です。
バイオリンは1年赤司征十郎くん、伴奏は2年実渕玲央くん、
歌い手は1年白銀ゆりさんです。』
会場が割れるような拍手に包まれる。
私は体に目一杯の息を吸い込んだ。