第3章 文化祭 【赤司】
ゆりSIDE
「どうしよう…もうすぐ本番…やだ…」
私は独り言を呟きながら部室でバスケットボールを
ぎゅっと強く胸に抱えていた。
人前はどうしても苦手だ。
小人数ならまだしも、これだけの大人数。
体育館を見た瞬間に泣きたくなって
本番間近で逃げ出してきたのだ。
「きっと皆探してる…」
でも、怖くて足が動かない。
せっかく綺麗な衣装も用意してもらったのに。
これでは面目が立たない。
「はぁ…誰か…誰か私に勇気をください…」
消え入りそうな声で呟くと、
不意に背後からフワッと抱きしめられた。
「わっ…!?」
驚いて振り返ると、そこには大好きな征ちゃんがいた。
黒い燕尾服に眩しいくらいの赤い髪が映える。
思わず抱えていたボールを落としてしまう。
「やっぱり。ここだと思ったよ…君はよっぽどバスケが
好きみたいだね。勇気が欲しいなら、僕があげようか。」
優しく微笑んだと思った瞬間。
「………っ!!」
私の口は征ちゃんの唇で塞がれていた。
驚いて息をすることも忘れてしまった私に
追い打ちをかけるかのように征ちゃんの大きな手が
私の後頭部を引き寄せた。
「んっ……!!んんっ…!!」
そのまま征ちゃんの熱い舌が私の舌を絡めとって逃がさない。
お互いの鼓膜を水音が揺らす。
口の中をたっぷり蹂躙された後、解放された。
「はっ……!」
一気に酸素を吸い込んだ私の頬はきっと真っ赤だ。
「これで勇気は出ましたか?お姫様?」
余裕たっぷりに微笑んで見せる征ちゃん。
「~~~~っ!!」
私は顔に火が付いたんじゃないかと思うくらい
一気に体温が上がった。
すっかり腰が抜けてしまって、征ちゃんに抱き抱えられないと
立っていられない状況にまでなってしまった。
「貰いすぎて立てないよぉ!!」
征ちゃんの胸を平手でパシパシ叩いた。
けど、征ちゃんは全く悪びれることもなくて。
そのまま私をフワッと抱き上げて、微笑んだ。
「それでは、会場まで私めがお連れいたしましょう」
そんな歯の浮くようなクサいセリフも、
征ちゃんだと様になるのが不思議。
私は抱き抱えられたまま会場へと向かうのであった。
「自分で歩けるからっ…///」
「おや、無理はいけませんよお姫様」
…そんな会話を交わしながら。