第3章 文化祭 【赤司】
状況を正せば、ぶっちぎりでゆりが1番…
といった形になる。
「いやぁあああぁ!!!!!」
この世の最期かとも思うような声を上げるゆり。
すると、凛とした声が部屋に響く。
「いや、これで決まりだ。ボーカルは、ゆり、君だよ」
今日ほど赤司が鬼に見えた日はないだろう。
「やだよ!!私人前なんかじゃ歌えない!!」
「僕だって君の天使のような歌声をいかに観客といえど
聞かせたくない。でもね、これは約束だ。」
それを見ていた実渕もゆりを宥める。
「そうよ!ゆりちゃんの歌声、ほんとに感動したの!
ゆりちゃんはやればできる子よ!がんばって!!」
「やです!そんなその場しのぎの嘘なんてつかないで
くださいよ、玲央先輩!!」
もはや軽いパニックになりかけているゆり。
しかし、そこに冷静な言葉が響く。
「いや、素直にうまかったぞ。少なくとも俺が今まで
生きてきた中で断トツ一番うまかった。」
…黛だった。
普段からいつも冷静すぎるくらい冷静な黛。
彼の言葉を聞いて、ゆりはピタッと
動きを止めた。
「それ、ほんとに言ってますか?」
「ああ。申し訳ないが、嘘は苦手な性分だ」
サラっと答える黛に、ゆりは掴んでいた
実渕の袖を解く。
そして、目線を赤司に送った。
「…やるしかない?」
「…事前に決めていたことだからね」
「他の出しものって言う選択はない?」
「他の部員に説明が立たないし、また時間を
割かないといけなくなる」
「どうしても私?」
「精密採点の結果、そうなってしまったね」
淡々と2人の会話が進む。
「…………どうしても逃げられない?」
「君は僕をホラ吹きにさせたいのかい?」
「それは…いや。」
「なら…」
「やります……」
こうして、文化祭の出し物はライブに参加ということで
まとまり、バイオリンは赤司、ピアノは実渕、
ボーカルは不本意ながらもゆりに決まった。