【進撃の巨人】 never ending dream R18
第35章 静夜思
870年
シガンシナの空はとても青く、昔ここが戦場となった場所である事を忘れさせるほどの美しさだった。
庭に面した板敷き状の廊下から空を眺めていたリヴァイは、その美しさに思わずため息をつく。
冷たい秋風が庭の木々を揺らす。
真っ赤に燃えるように色付いた葉が、ヒラリと地面に落ちた。
「リヴァイ先生、さようなら。」
通りからこちらへと礼をする少女。
その少女の手には、布にくるまれた模造刀が握られている。
「あぁ、気を付けて帰れよ。」
リヴァイはわずかに目を細めながら、その少女を見送る。
家路につく少女の足取りはどこか軽やかで、習いたての剣舞が楽しくて仕方ないのだろうとリヴァイは思った。
シガンシナに建つ小さな平屋の家。
そこはかつて、サラの家が建っていた場所だった。
リヴァイは部屋の中へ戻ると、すぐさま台所へ向かう。
こうして剣舞の稽古を終えた後には、必ず紅茶が飲みたくなった。
窓の外から聞こえる鳥の声。
その声に耳をかたむけながら、湯を沸かす。
20年前には想像もつかなかった穏やかな暮らし。
そんな暮らしが、かつての戦場であるシガンシナにはあった。
紅茶をいれ終え、リヴァイは先ほどの庭に面した板敷き状の廊下へとやってきた。
“縁側”と呼ばれるそれは、サラの先祖が住んでいたとされる日本の家屋によくみられるものだった。
20年前のあの日、人類の闘いは終わった。
壁が無くなり、それまでは御法度とされていた壁外の文化が急速に広まった。
もともと壁外の文化に興味の無かったリヴァイであったが、サラのルーツとされる日本の文化には強い興味を持った。
壁外への移住者や旅行者が増える中、リヴァイも一度だけ日本を訪ねた事がある。
春夏秋冬、四季折々の美しさを見せる日本の風景に心を奪われた。
それはまるで、サラという女性そのもののようで、その風景にリヴァイは何度も何度も心を奪われた。