第24章 エルヴィン・スミス①

「何か…悲しい事でもあったのですか？」



甘いビスケットを食べ終えたサユリは、湖に映る月を見つめていた俺に、そう優しく問い掛けた。





彼女と過ごせるのも、これが最後。



そう、心に決めていたはずなのに、彼女の笑顔を見ていると、決心が鈍ってしまう。





俺は調査兵になると決めた。



いつ壁外で命を落とすかも分からない。





個を捨て、公に心臓を捧げた兵士…そんな俺に、サユリを幸せにする事など出来ないのだ。





「…悲しい事か。
なぜ、そんなふうに思うんだ？」



「だって…今日のあなたは、今にも泣き出しそうな顔をしているから…。」





サユリはそう言いながら、俺の頬に優しく触れた。



つぶらな黒い瞳が、俺を見つめる。



真っ直ぐで、汚れのない美しい瞳。





サユリの瞳に見つめられると、やはり俺は兵士ではなく、1人の男になってしまいそうになる。





全てを見透かしているかのようなサユリの瞳…。





「サユリ…君に聞いてほしい事があるんだ。」



俺はサユリの瞳を見つめながら、ゆっくりと重い口を開いた。