【進撃の巨人】 never ending dream R18
第21章 咽び泣く~戸惑い~●
「ミケ、退却だ。
街に何かが起きている。
壁が再び破壊された…そう捉えるべきだろう。」
そう言うとサラは、近くに待機していた兵士に退却を命じる。
伝達のため、慌ただしく走り去る馬の足音を聞きながら、サラはそっと胸元のループタイを握り締めた。
仮にトロスト区が巨人の襲撃を受けていたとしても、壁内へと帰還するまでには少なくとも5時間はかかるだろう。
もし、トロスト区ではなく、カラネス区やクロルバ区だった場合はそれ以上だ。
5年前とは違い、ウォール・ローゼ内にある調査兵団本部には、残留の兵士などほとんどいない。
それは、トロスト区にある支部も同じ事。
事実上、今壁の中にいるのは、実戦経験の無い駐屯兵団と、名ばかりの憲兵団。
そして…ただ逃げ惑う事しか出来ない住民達。
一刻も早く壁内へと帰還せねば。
そう思い、馬へと戻ろうとした、その時だった。
ループタイを握り締めていたサラの右腕を、ミケが突然強く掴んだ。
「怖いのか?」
いつにもまして真剣な表情を浮かべるミケの問い掛けに、サラは「大丈夫だ。」と答える。
いつからだろうか。
こうしてサラが現場の指揮を託されるようになり5年。
選択を迫られる場面ではいつも、父であるエルヴィンの事が頭をよぎるようになっていた。
その度、エルヴィンの形見であるループタイを握り締めるサラに、きっとミケは気付いていたのだろう。
わずかに震えるサラの腕を、ミケの大きな手がしっかりと支えていた。
「サラ…俺のそばから離れるな。
長い戦いになる…。」
いつもは冷静なミケが見せた、余裕の無い緊迫した表情に、サラはこれから起こり得るであろう“最悪の事態”を覚悟した。
【咽び泣く~戸惑い~】おわり
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