第1章 短編集
たったそれだけなのだが、中学では男役をしてそれ相応に生活してきた私にとってほぼ初めてといっても過言ではない「女の子扱い」されたことに喜びを感じていたのだ。
チャイムが鳴り放課後、部室へと足を向ける。
ロミオとジュリエット、それが全国大会の前にやる一つの演目。もちろん役はロミオだ。
部室に近づくにつれてキャッキャと女の子たちの声が聞こえる。いつもより騒がしい。
「おぉ・・・ジュリエーーーット!」
「キャー!東堂様ー!」
馬鹿がいた。
「お!名前!待っていたぞ!」
「え?なに小型犬?」
「貴様また小型犬と言ったな!!
オレは小型犬ではない!何度言ったらわかる!」
このセリフは私達お決まりのやり取りだ。
「で?何の用事?」
「あぁそれはな・・・。と、その前にちょっとこっちに来い」
いつもとは違う位置にスタンバイさせられる。
えっと、ここは私の立ち位置じゃないんだけど・・・。
「さぁ!」
「・・・は?」
すこし下の方で東堂が私に手を差し出す。
「なんだ?そこは「あぁ、ロミオ!」だろ!?」
「いや、私ロミオだし」
私の立ち位置はジュリエットの位置。
私が立つべきなのは東堂のその位置。
いつもは立たない少し高い位置にそわそわしてしまう。
なんというか、居心地が悪い。
「この東堂様にジュリエットをさせるつもりか?」
「・・・あんたがやりたいだけじゃん」
気まぐれだかなんだかわからないけど、そういうならやってやろうではないか。
後輩が私と東堂のツーショットをスマホでバシャバシャと撮っている。
「王子が二人・・・キャー!」とまた女子が騒がしくなり、その声に吊られてギャラリーが増えてきた。その中には東堂と同じ自転車競技部の姿もある。
あぁなんて恥ずかしい。
だが私は演劇部。
観られることが仕事であり使命なのだ。
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