第1章 短編集
ベタな告白
天は三物も与えたのだ!!!!
とワンワンうるさい声が隣のクラスから聞こえる。
またあいつか。
ガラリと廊下の窓を開ける。
廊下から水分を含んだ暑苦しい空気と共にあのワンワンと小動物が吠えるような声が聞こえた。
あの声はよく通る。
それこそ、我が演劇部には持って来いの人材なのだが。
あいつの部活でのインターハイ同様、演劇部にだって全国大会がある。
今度こそ全国大会で優勝させるのが、私の最後の役目なのだ。
演劇は文化部、ではない。筋力(特に腹筋)がないと声が会場の後ろまで届かない。
走り込みだってするし、筋トレもする。
私はあの小型犬に何度か演劇部に入らないかとアタックをしていた。
1年の頃からだ。あの美貌(というとアイツがつけあがるから本人には言わないが)とあのよく通る声。
それは我が演劇部には必要だった。
声が通る、通らないは声質だったり、話し方だったりいろいろあるし、それなりに練習すれば出来ることだ。
それでも私がアイツに執着したのは、その生まれ持った声の聞き取りやすさとアイツには女子のファンがいる、というところだった。それに加えて堂々としたあの佇まい。女子部員が多い演劇部にあーゆーのがいたらどんなに頼れるかと何度も思った。
だがアイツは自転車競技部一筋。
そうそうにアイツをあきらめた私は、やはりこの三年間、中学時代と同様に少ない男子部員よりもはるかに男らしい男役をすることになるのだ。
アイツに執着したのはそれだけではなかった。
私は割と男勝りで、髪だって短いしスカートよりズボンのが似合う。背も割と高い。
女の子の気持ちが他のどの男子よりもわかるし(なんせ女子だし)周りからは王子様と呼ばれるのも嫌いじゃなかった。
でもアイツは・・・東堂尽八は私を見て
「名前はかわいくて綺麗だな」
と言った。
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