第1章 短編集
こいつは直接言わないと“絶対”気付かねェ。
ここ1年でそれが教訓となった。
「名前、気が変わらねェ内に言っとく、よく聞ィとけヨ」
「へ?なに・・・」
宣戦布告だァ、東堂。
ぐるんと手を掴みながら割と後方にいる東堂を見る。
「オイ東堂ォ!!!今からの坂勝負しろォ!
ンでテメェにこの勝負勝ったらコレを俺に寄越せ!」
一瞬、周りがシンとする。
「えぇ!?や、靖友!!!?」
わたわたとし始めた名前の手を引き、自分に引き寄せて肩を組む。
既に愛車にまたがっていたので本当は抱きしめてやろうと思ったが肩を組むので我慢した。
「テメェが兄貴なのはこの際仕方ねェ」
「なんだと荒北ァ!!!名前はやらん!名前は昔から「尽くんと結婚したいの♡」と言っておった!実の妹だから叶えてはやれんがお前にだけはやらん!絶対だ!」
今度は兄貴の方がわたわた
(・・・というよりわなわな、が正しいか。)とし始める。
そーゆービミョーなとこ似なくていいから。
「じ、尽くんそれ本当に昔の話だから!!」
「ウルセェ!!そーゆーのはなァ、勝負に勝ってから言えヨ!」
ベー、と舌を出して東堂を威嚇する。
中指立ててもいいのだがそれやるとコイツが怒るだろうしィ?
「なんだとぉぉ!!オレは山神様だぞ!神に勝てると思っておるのかァァア!!!」
「やってみねェとわかんねーダロ!!!」
わぁわぁと言い合いが始まる。
とうとう両者が愛車から降りて言い合いをしている。
主に尽八が今にも靖友に殴りそうだがそこは新開・福富で抑える。
そうこうしている内にマネや他の部活動の人たちも何だ何だと野次馬と化してきた。
あぁ・・・せっかくみんなの士気を上げたのが台無しじゃないか・・・。
「オレもまざろうかなー、楽しそうだし」
・・・なんて怖いこと言い出すのだ、この後輩は。
「・・・山岳、それはやめて、余計こじれるから・・・」
そのあと死ぬ気でペダルを回して実兄に何度も何度も戦いを挑んだ男の姿があった。
end.