第1章 短編集
これから掃除当番だという新開と別れ、名前と二人きりで廊下を歩く。
どうしよう、せっかくフクが与えてくれた機会だが、やはり二人となると緊張する。
あぁ、何を話そう。沈黙が怖い。
いつもファンとは気軽に話せるのに。
「・・・ぱ、じん・・・尽八!?おーい」
「む、なんだ」
「む、じゃないわよ、私の話聞いてた?」
「え、あ、あぁ・・・!す、すまない、ぼーっとしていた」
ひらひらと手のひらが目の前を行き来する。
隣同士であるいていたものだから名前がオレの顔を覗き込むようにしていた。
正直、全体的に近い。顔も、身体も。
すこし驚きつつ距離を置く。
でないと茹蛸のような顔になるのがわかっていた。
「だろうね、声かけても気付かないからびっくりしたよ」
にしし、とはにかむ姿に悶絶しそうになる。
頼むから他の男の前でそんな顔しないでくれぇぇぇぇえ!!!
と心の中で小さな尽八が転げまわりながら悶えつつそんな言葉を叫びつつリアルな自分は「そうか、それはすまんな」とそっけない返事をした。
「で、とりあえずもう一度部室あたりを探してみようと思ってるんだけど、どうかな?」
「いいんじゃないか?心当たりもある程度探したのだろう?」
「うん、靖友と隼人でもう一度探した場所当たってもらってるし、ほら」
名前のスマホ画面を見ると箱学チャリ部のグループトークでは随時ここは探した、という連絡が入っている。
真波はいつものごとく探さんだろうが、泉田や黒田あたりは探しているだろう。
ちょこちょこ状況報告的なトークが更新されていた。
ちなみに寿一とオレはスマホでないのでここには参加していない。
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