第1章 短編集
新開と幼馴染
「はやとー」
「ん?なんだ?」
お昼を告げるチャイムと共にひょこっと現れる名前。
いつもこの隣のクラスの幼馴染と屋上でランチをしている。
「きょうあめー」
「あ、そうか。ならやめとくか?」
「そーだね、またにしよ。はいこれ、じゅいちにもね」
「サンキューな」
すたすたと歩いてまた戻って行ってしまう小さな姿を目線で追いかける。
あぁ、だから雨は嫌いだ。
「名前か?それ」
「寿一」
それ、とは先程渡されたウサギ柄の布とシンプルな青の布に包まれた弁当箱が二つ。
寿一にシンプルな青の布に包まれた弁当箱を渡す。
「名前もここで食べればいいだろう」
「・・・視線が怖いんだとさ、女子の」
ずっと同じクラスだったが今年初めて別のクラスになった。
これからもずっと同じクラスだろう、と思っていたのであまり新学期に貼り出されるクラス配置表を見ずにいたのが悪かったのだろうか、教室に名前の姿がないのに気づき、慌てて電話をすると隣のクラスから電話をしながら歩いてきて「残念、となりのクラスだよ」と寂しそうに言ってたっけ。
せめて昼だけはと言ってこちらのクラスで一緒に食べるようになって、(と言っても昔から一緒になって食べていたが)少し前に「教室で食べるのやめよ」とメールが入ってからもっぱら屋上で昼を取ることになった。
しかも晴れの日限定だ。
いままで名前が一緒にいなかったことなんてなかった。
クラスも一緒だったし、いつも自分の視界には名前がいた。
こんな数分、数時間視界に入らないだけでこんなにも不安になるなんて。
「・・・新開」
「なんだ?寿一」
「オレは荒北と東堂と晴れの日は部室で食べている」
ちなみに雨の日は食堂だ。
だから雨の日は部室は使われない。
とつぶやく寿一。
「・・・!あ、ありがとう、寿一!」
「名前には泣かれたくないからな、オレも」
名前の教室に向かうオレの心は天候とは裏腹に晴れの日のように暖かかった。
end.