第1章 短編集
しばしの沈黙。
雨の音が少しうるさい。
それ以上に自分の心臓がドクドクと鳴っている気がする。
きっと顔は赤いだろう。恥ずかしい。
ちらり、と荒北くんを横目で見ると視線が合った。
目を見開きびっくりした面持ちでこちらを見ている。
何事かときょろきょろ周りを見渡すが特にこれといって変な物はない。
もう一度荒北くんに顔を戻すとひやっとしたものが額に当たった。
「顔スゲェ赤いけど熱出したかァ?」
額には彼の手が添えられていた。
額・頬・首に彼の掌がつつ、と動き、私の熱を計っている。
私はと言えばしばらく状況が掴めなくて固まっていたのち、さらに顔を真っ赤にさせてしまった。
そんな私を見て熱があったと勘違いしたのか、荒北くんは汗臭かったらゴメンネ、と一言そう言うとカバンからすこし濡れた大きめのタオルを取り出し、私の頭にかぶせたあと、その手を私の後頭部に置き、そのまま引き寄せた。
私の目には彼の胸板が視界いっぱいに広がる。
「ちょっとくっついてりゃ、あったかいダロ?」
こちらの気持ちも知らずに・・・・!と怒りたいやら嬉しいやら悲しいやら泣きたいやらよくわからない感情で頭がぐるぐるとする。
身体はぴったりと密着して、身動きは取れそうにない。
びっくりしすぎて私の体はほぼ硬直していたが真っ赤な顔を少しでも隠したくて少しだけ下を向いた。
頭からも肩からも目の前からも荒北くんの匂い。
ねぇ、こんな事誰にでもするの?
私は意識されてないの?
同じくらい早い心臓の音はなんでなの?
・・・ん?同じぐらい?
バッっと顔を上げると真っ赤な顔の荒北くん。
「おわァ!み、みんじゃねーヨ!!!!」
後頭部に押し付けられていた荒北くんの手は私の頭を掻き抱くようにぐっと力を入れた。
「・・・あー!クッソ!恥ずかしいんだヨ!!!」
頭上でブツブツ言いつつも何か言いたげな彼の言葉を待つ。
私のこの胸の高鳴りが、きっと彼にも聞こえているだろう。
期待してもいいのかな?と思いつつそのたくましい胸板に手をそっと添えた。
びくりと体をこわばらせたのち、ガシガシと頭を掻いているのだろうか、体がすこし揺れて、暫らくして小さく、聞き取れるか聞き取れないかの、彼には似ても似つかないほどか細い声を出した。
「・・・ずっと前から好きだった・・・ヨ」
end.