第1章 短編集
「・・・っ!!!」
びっくりしすぎて悲鳴を上げそうになったのを何とかこらえ、落ち着かせる。
返事までに少し間が空いてしまったため荒北くんに変な顔をされたが一言謝ってから言葉をつなげた。
「えっと・・・なに?」
あー・・・とかそのォ・・・とか言っている荒北くん。
しばらくするとガシガシと盛大に頭をかきだし、私の目の前に何か出してきた。
「あんま意味ないかも知んないけどォ・・・その・・・羽織ってくんねェ?」
目のやり場に困るから、と一言付け足されて渡されたのは箱根学園自転車競技部のユニフォームだった。
かすかにシトラスの匂いと荒北くんの匂いがユニフォームからしてきた。
これを着るのか・・・と思うとただ羽織るだけなのにドキドキしてくる。
しばらく呆然とユニフォームを見ていると
「着ねェの?」
とあまりこちらを見ないようにしつつ声を掛けてきたので私は少し慌てた。
「え!あ、いやっ・・・着ていいの?」
「ア?着るために渡したンだヨ」
「えと・・・じゃあ、借りるね?」
お礼を言い、カバンを足元に置いて夏服の上からユニフォームを羽織る。
肩にかけるだけ、肩にかけるだけ・・・と思っていてもやっぱりドキドキとしてしまう。
ようやく肩にかけるとユニフォームから荒北くんの匂いがして、体を包まれているような、抱かれているような恥ずかしい気持ちになる。
早く雨止んで!!という願いもむなしく雨はなおザァザァと降り続いていた。
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