第1章 短編集
「そーなんですねぇ・・・じゃ、オレが勝ったらちゅーしてくれますか?」
「ぶふぉっっ!!!!」
たまたま水分補給をしていた東堂先輩が盛大に噴き出した。
多分変なところに入ったのだろう、涙を浮かべながらゲホゲホと咳込んでしまっている。
その爆弾発言をした張本人は今オレいいこと言った!と言わんばかりのドヤ顔をしているが、その顔をされてもどう返せばいいのか私にはわからないしびっくりしすぎて何も言葉が出てこない。
東堂先輩もそうだがきっと私も真っ青なのか真っ赤なのかわからないような顔をしているだろう。
「おまっ、バカなのか真波!」
「あ、もちろんちゅーは口にですよー」
「そーゆーことを言っているのではない!!!」
滅多に外すことのないカチューシャを取って髪をぐしゃぐしゃとしている姿と、いまだにこちらを子犬のような目で見てくる二人の姿は面白いくらいに極端だ。
まさかの提案に頭を悩ませていると真波くんが何かを私に向かって投げた。
白いそれはフェンスを越え、私の手元に落ちてくる。
箱学の自転車競技部のジャージだ。
「名前さん、帰りにオレに襲われたくなかったらそれ今すぐに着てくださいね。いつまでも東堂さんが変な目で見てるの嫌だし。」
まだ泳ぐんだけどな・・・と思いながら上半身裸の真波くんとオレはそんな目で見ていないぞ!と怒鳴っている東堂先輩を横目に私は赤い顔をジャージで隠すので必死になっていたのであった。
end.