第1章 短編集
これも割と毎回聞くセリフだ。
東堂先輩はいつものように顎に手を当てながら私を上から下まで見る。
最初はやはりびっくりしたものの、今では慣れたものだ。
それもこれも、はじめ恥ずかしくて隠した時に「もっと自分に自信を持て」と言われた東堂先輩の顔が下心とかなく、純粋に言っているのがわかったから、というのもあるが。
「程よく筋肉もついているし、出てるところは出て・・・「東堂さんそれ以上オレの名前さんに変な事言うといくらセンパイでも怒りますよー」・・・おっと今の発言はセクハラになるか、名前すまんな」
「東堂先輩に褒められると悪い気はしないので大丈夫です」
これは本音だ。
ニコリと笑って東堂先輩に再度大丈夫だと伝えるとみるみるうちに先輩の顔が明るくなる。
こういうところ可愛いな。
「そっ、そーかそーか!!」
ハハハハ!と笑う東堂先輩の後ろで恨めしそうに見る真波くんが目に入った。
「名前さん、オレにはそんな顔してくれないのに・・・」
ぶすっとした顔をこちらに向け、いじけているようだ。
愛車にまたがりハンドル部分に腕を置きぶつぶつ言っている。
少しいじわるしすぎたか、と思い真波くんと名前を呼んだ。
「真波くんの走る姿、きれいだから私好きよ。」
私の一言に途端パァっと明るくなる真波くん。
周りに花が咲いているようにも見えるし、ちぎれんばかりに尻尾を振っている犬のようにも見える。
こちらにずい、とやってきてフェンスをがしゃがしゃとならしていかにもテンションハイなのが嫌でも分かった。
「名前さんインターハイ見に来てくださいー」
「あ・・・ごめん、確かその日は私も試合で・・・ただ、3日目はいけるかも知れないけど終わりギリギリに着けるか着けないか微妙なの。」
この箱根学園は部活動の試合日程をまとめたカレンダーが月ごとに配布されている。
私も一度あの綺麗な走りをもっとちゃんと見てみたくて確認したら同じ日に大会があることがわかり、落胆したのを思い出した。
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