第1章 短編集
迷惑な告白
「名前さーん、好きでーす」
「・・・あぁ、真波くんありがと」
一年後輩の真波くんが私にああいうようになったのは先月の今頃だったか。
立ちこぎをしながらぶんぶんと腕がちぎれるほど振るあの姿をもう何回も見てきた。
私も私でそれこそ最初は赤面したが毎日行われる公開処刑のような告白にも随分と慣れてきてしまっている。
白いロードバイクを乗りながら走る彼をこのプールサイドから何度も見てきた。
その走りは楽しそうでもあり、時々羽が生えたみたいに加速して正直すごく綺麗だと何度も思った。が、今はその姿も見当たらないようなぐらいデレっとした笑顔を振りまいてこちらをずっと見ている。
ちなみに今は私も真波くんも部活中。
私は来月の水泳大会の個人練習のため3キロほど泳ぎ、プールサイドに上がったところをあの公開処刑もとい告白をされた。私は早々怒られることはないが真波くんはチーム練習中。東堂先輩によそ見をするなとぐちぐち言われている。うん、いつもの光景だ。
しばらくじっと見ているとまたも見慣れた姿が見えてきた。
「名前、今日もうちの真波が邪魔して申し訳ない!」
毎回お詫びを入れに来る東堂先輩。
ごめんという仕草をしてフェンス越しに私を高く見上げる。
学校の中ほどに位置するこのプールは地上から160センチほどの高さにあり、プールサイドにいた私とプール敷地外の校内でロードバイクにまたがっていた東堂先輩とはかなりの高低差があるのだ。
「いえ、東堂先輩が謝る必要はないですよ」
どちらかといえば謝るのは真波くんの方ですし、と付け加える。
東堂先輩とこんな風に話すようになったのも真波くんがああなってからだ。
多分真波くんが私の名前しか呼ばないから東堂先輩も私を名前呼びしているんだろうな、とすこしズレた事を考えながら東堂先輩がいる場所の近くまで行くことにした。
「うむ・・・それにしても相変わらずいい身体だな、名前は」
「またまた、ご冗談を」
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