第10章 カミングアウト
「さゆ、まだいうことあるでしょ?」
若干の混乱が残る空気を割ったのはまたカカシ上忍だった。ただ先ほどとは違い、少し低めに発せられるその声は「言え」と圧力をかけるようなものだ。
「……でもこれは…」
「サポートしてもらうんだから。俺だけじゃフォローしきれないこともあるし。」
2人の間で、言葉以上に視線で会話がされているようだった。
「…分かりました。」
さゆは目を伏せるとこちらへ向きなおる。
「私は2年後、イタチくんを探しに行きたいと思っています。この事は火影様も了承済みです。」
空気がまたピリッと張り詰める。
「………見つけて一体どうする気だ?あいつはS級犯罪者だぞ。」
「………彼と…話がしたいんです。」
さゆがイビキの問いにまっすぐと視線と言葉で答える。
「話をしてどうする?自首でも説得するのか?自分の一族を、親友や親まで殺した男がお前の話に耳を傾けると思うのか?お前がイタチを探しに行くその間、サスケはどうする。」
「…サスケくんはそれまでに1人でも過ごせるように家事などを教え込むつもりです。カカシさんにも見守ってもらいます。」
「殺人鬼である恋人を追っかけるためにまだ幼いサスケをカカシに押し付けるとは人格を疑うな。」
ギロッとイビキがさゆを睨み威圧する。
瞬間、バキッと床がなるのと同時に重力が増えたように体が重くなる。
意識がうまく働かず、すぐに収まったそれがさゆの殺気であることに気づくのにしばらくかかった。
「さゆ。」
「……すみません。」
カカシ上忍の諭すような声を聞いたさゆはこちらへ深々と頭を下げた。
「イタチくんは…ずっと様子がおかしかったんです…。私はそれに気づいていたのに何もできなかった。きっと、彼なりの事情があったと思うんです…この事は…信じてくれなくてもいいです…でも、だから私は彼を探しに行きます。誰が何と言おうと。」
顔を上げたさゆの目は少し潤んでいた。
「お話聞いてくれて、ありがとうございました…失礼します。」
さゆはもう一度ぺこりとするとスタスタと火影室を出て行ってしまった。