第7章 後ろの少年
伸ばした手は空を掴んでいた。
「…………ここは…」
ああ、そうだ。
昨夜、さゆさんに手を引かれそのまま泊めてもらったんだ…。
隣を見るとさゆさんはまだ寝息を立て寝ている。
さっき見たものが夢だと、夢の中で既に気付いていた。
愛しい人、親友、愛する家族。
そして、幼い頃からの夢の実現。
だが今、自分はその夢から離れた道を歩もうとしていた。
どうしようもない現実がただ立ちはだかっている。
それでも、生きなければならない。
一族の未来のために、守るべきものの為に。
隣で眠る愛しい人。
さゆさんとは付き合ってはいない。
それでも自分はこの人を愛している。
張り詰めた日々の中で彼女の存在が自分を癒してくれている。
そしてきっと、さゆさんも…
しかしさゆさんは心の闇からようやく解放されてきたことでいっぱいいっぱいだろう。
この関係でいたい訳ではない。
だが自分もいつことが動くかわからない不安定な状況。
だから、今がちょいどいい。
さゆさんに布団をかけなおすと自分の服に着替え、「ありがとうございました」と小さく呟くと、そっと玄関の扉を閉めた。
まだ日が昇りきっていない薄暗い里。
冷たい空気。
なぁ、シスイ。
これからどうやって生きていこう?
下を向いたら自分の全てを諦めてしまいそうで、顔を上げて地面を蹴った。