第7章 後ろの少年
「うん。いいよ。」
イタチくんがそっと背中と頭に手を回してくる。
優しく力にがこめられ、すっぽりとイタチくんの腕の中に収まる形になった。
いいなぁこれ。
落ち着くなぁ。
「イタチくんポカポカだね。」
「いいお湯でした。」
「ちゃんと止めた?」
「ごめんなさい、ちょっと溢れちゃいました。」
「あーあ。」
きっとお風呂の中でも考え事をしていたのだろう。
お湯を溢れさせるくらい悩んでいるくせに
あんな死んだ様な目をしていたくせに
それでも私に微笑んでくれるほど優しい彼が抱えているものに、私は触れることはできないのだろうか?
踏み込んでみたい。
彼に重みを与えているものを少しでもなくしてあげたい。
でもそれ以上に踏み込んで拒絶されるのが怖くて、結局聞くことができない自分に苛立ちを覚える。
きっと、イタチくんから教えてくれることはないんだろうな……
自分の弱いところを見せようとしないイタチくんが伸ばしたこの手は、きっと彼にとっての精一杯。
彼の腰に回している手に力を入れると、イタチくんも同じ様に返してくれた。
イタチくんが私を求めてくれている。
今はそれだけでいい。
触れ合うイタチくんの体はぬくぬくとしていて、やがて眠気が襲ってきた。
「さゆさん…ありがとうございます。」
「うん?うん。」
「ちゃんとわかってます?」
「うん。あったかいから眠くって。」
あくびをしながら答える私に、イタチくんは優しく笑うと頭を撫でてくれた。
「おやすみなさい。」
「うん…おやすみ…」
誰かとこうして寝るなんて両親と寝ていた時以来だな。
この心地よさがいつまでも続けばいい。
世界が
時間が
今このときだけならいいのに。
そう、ぼんやりと考えながら目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。