第14章 帰還
「はぁ…」
何度目のため息だろうか。
というか俺はどのくらいここにいるんだろうか。
高さのあった太陽はもう地平線へ消えようとしていて、真っ赤に染まる空は今日の日に別れを告げているようで。
……帰ろう。
あいつなら気づくんじゃないかと思ったけど…この時間じゃきっと買い物とか行ってるだろうな。
くっつきかけていたベンチから腰を持ち上げケツを叩く。大丈夫。避けられてなんかないはずだ…たまたま、タイミングが合わないだけ。全然気にしてないし。
「ゲンマさん!」
頭の中にさゆの声が響く。こんなに人がお前のこと考えてるのに、どうしてこの声を俺に1番に聞かせてくれないのだろうか。
ってかこんなこと考えてるのって本当にもう俺は…
「ゲンマさんってば!」
「えっ?」
突然、誰かに肩を掴まれ顔を上げると、そこには息を切らした女がこちらを見つめていた。
あいつに似た口元
あいつに似た髪
あいつに似た目
「…………さゆ?」
「…っはい…っ」
「本当にか?」
「お久しぶりです。」
息をゆっくりと整えながら真っ直ぐこちらを見つめるさゆの頰に手を伸ばせば、柔らかな感触が手のひらを温める。
「ゲンマさん」
優しく、紡がれた自分の名に、その声に、気づけばその存在を腕の中に収めていた。