第2章 ことのはじまり
糸が切れたようだった。
ふっと笑うと彼女は、ぽろぽろと涙を流し始めた。
忍の世界。仲間の死を見ることは少なくない。歳を重ねれば重ねるほど、生き残れば生き残るほど、その数は増え、自分も同じように多くの人を殺す。
当たり前のことだ。
だけどそんな簡単に割り切れるものじゃない。
割り切っていいものでもない。
かける言葉が見つからず、三代目に促されるまま部屋から出ることにした。ドアに手をかけたそのとき「あの…」と小さな声で呼ばれ、振り向かずに立ち止まる。
「ありがとう…ございました…」
思わず目を見開いてしまった。同時に胸の奥にこみ上げるものを感じる。いい気分はしない。
「……ゆっくり休めよ…」
最後まで振り向かずに後手にゆっくりとドアを閉めた。背を向けているのに、面もしているのに、動揺が気取られなかったか気になった。
責められても仕方がないと思っていた。
どうしようもない怒りの矛先を第三者に向ける人は多い。ましてや自分よりも幼いこの子が現状を受け入れるには困難なはず。
なのにお礼を言われた。
それが逆になんとも言えない感情を自分に生んでいる。
もう少し、あと少しでも速く駆けつけることができたらアオリという子も助けられただろうか?
きっと無理だ。
アオリという子は敵の刀が急所に刺さっていた。彼女に致命傷を負わせまいと庇うのに必死で自分の事までかまえなかったのだろう。
アミツキが咄嗟に送ったであろう緊急の知らせを見て、近くにいた自分はすぐに駆けつけた。走って走って走った結果がこれだ。ベストは尽くした。
けれど、できるならあんな死んだような顔じゃなく、
彼女の喜ぶ顔が見たかった。
彼女の心は死んでいないだろうか?
いくら悩んでもどうすることもできない。
「ままならないね、どうも……」
静かな病院の廊下に自分の足音だけが響いて残った。